特別講演『超高齢化社会においてMCI(軽度認知障害)症例に対して我々が絶対に知っておくべきこと-実際の3症例が暗示する“これからの運動器プライマリケア”-』

 私たちが住むこの国は人類史上かつてないスピードで超高齢化社会に突入しようとしています。そうした日本社会が今後どのような事態に直面していくのか、諸外国からその行く末が注視されています。

 当会はこれまで「アクセルとブレーキの踏み間違いは単に加齢という次元で片づけていい問題ではなく、脳疲労という要因が隠れている」と主張してきました。さらにITの急速な進化がもたらす情報化社会にあっては「人類総脳疲労(脳過労)状態に陥るリスクがある」というのが当会の見方です。

 うつ病や認知症の発症には脳疲労が大きな要因として隠れています。痛みはそうした脳疲労を知らせるサインであると同時に、これを回復させる脳の自衛措置でもあるという自説を裏付ける実例について、今回は極めて象徴的な3症例を取り上げ、実際の対応、処置等々を披瀝し、その上でこれからの運動器プライマリケアに欠かせない極めて重要な視点を喚起させていただきます。

 今後は整形や接骨院等において、MCIもしくはMCIの疑いがある患者さんが来院するケースが増えていくものと推察されます。そのとき私たちが気をつけるべきことは何か?どのような姿勢で向き合うべきか、全力で解説いたします。

下の映像は今回紹介する予定のMCI症例です。

この患者さんは「下腿から足にかけての腫れが引かない」という主訴で来院されましたが、その真の病態は驚くべきもので、最終的に3つの病名が…。その詳細については当日詳しく…。ちなみに3つの内の一つは映像から分かるように腓腹筋部分断裂です。問題はそれ以外の2つの傷病名…。 

 答えを知りたい方は当ページの最後部をご覧ください。

BFI のアップデートおよびローテーション実技演習

 前回、患者座位によるバストマットテクニック(BFI式エフルラージュ)、足底からの距踵関節微振動、ルーティンテクニック等の体感比較試験を行いましたが、その結果についてご報告いたします。

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 さらに今回は主要技術の「ローテーション演習会を行います。

 基本的にBFIの技術には他の徒手医学にありがちな「開発者のオリジナルテクニックをお弟子さんたちが何年もかけて習得していく」といった概念がありません。

 複雑系である脳にアプローチする手技は、それ自体が修正アプリすなわちソフト(プログラム)のごとき性質を有するため、術者の手は脳にアクセスするための単なるデバイスに過ぎません。人体の各種インターフェース(皮膚・骨・関節)に接続するための端末に過ぎないのです。

 その端末特性の理想として、当会は「生体にとって究極的に無害の接触デバイス(優しい風合いのもの)が好ましい」と考えています。つまり極限まで脱力した上肢(上腕~手指)です。

 BFIという技術に、仮に術者間の優劣が存在するなら、その違いは「いかに自らの力を抜くことができるか」といった次元に委ねられます(とは言え、これは存外むつかしい。一般に力を入れることより力を抜くことのほうが高度な身体操作…)。

 ただし、術者自身の脳のオキシトシン分泌量が多いほど、被験者(患者)の側の分泌も多くなることが知られていますので、仮に上肢の脱力が不十分であったとしても、オキシトシン高活性の術者であれば、そうしたマイナス点を十二分にカバーすることもあり得るでしょう…。

 ただ、ここで留意しておきたいのはタッチケアの刺激の質や強弱においては、生体との相性という次元が厳然と存在するという事実です。

 たとえばBFIの臨床においては、明らかに非接触のほうが「気持ちいい、心地いい」と感じると同時に痛みの改善も得られる患者さんがいる一方で、明確な分かりやすい接触(タッチ)があったほうがいいという患者さんもいます。間接タッピングに対しても、はっきりしたタッピングのほうがいいという方もいれば、微弱タッピングのほうがいいとう方もいます。

 こうした刺激に対する感受性能の個体差を、何らかの方法で事前に客観数値化できれば、症例ごとに最適なタッチ技法を選択することができるわけですが、そうした手段を持たない現状においては、私たち術者自身ができるだけ多くの他のデバイスを体感することで、その感覚体験を実際の施術にフィードバックしていくというプロセスが非常に大きな意味を持ちます。

 つまり術者によって微妙に違うであろう色々なタッチ加減を体感することが、極めて重要だということです。今回はそうした体験実技の演習を行います。これまでは特定のペアを組んで行う比較体感実験が多かったのですが、今回は参加者全員によるローテーションでより多くの術者のデバイスを体感していただきます。

 開発者であるあっくん※(当会代表)もその輪に加わりますので、今回初めて「プログラマーの技術」を参加者全員が体感することになります。

当会では、会員同士による「先生」という敬称の撤廃に努めており、互いに「〇×さん」と呼んでおりますが、代表に限っては「三上さんと呼ぶのはちょっと…」という声が多かったため、ならば「“あっくん”ならどうよ?」とふざけた提案をしたところ、周囲が「そっちの方がいい」と、まさかの受諾になりまして…。冗談が本当になってしまったというお話。

 おそらく“あっくん(プログラマー)”なんかよりも気持ちよく感じられる術者が他に何人もいるはずです。ゲームソフトの開発現場を考えれば分かりやすい。創作者自身が常に最高得点を出すとは限らない。むしろ「開発者≠ゲームの達人」が常でしょう。「ソフト開発の能力」と「ゲーム攻略の能力」は別物。

 あっくんの“癒し系脳力(オキシトシン分泌レベル)”に関しては自信がない(…、もっともオキシトシン量だけが脳力を決めるわけではないでしょうけれど)ですし、彼の手は「生来の冷性の為とても冷たい」すなわち冷しデバイスなので、そのあたりの違い(参加者個々の温冷度)も感じていただけることでしょう。

 術者による脱力レベル、温冷の違い、筋量の違い、皮下脂肪量の違いなどなど、本当に様々なデバイスを体感してみてください。その経験値が必ずやあなたの臨床に生かされるはずです。

 柔道、剣道、ボクシング、レスリングといった格闘技をはじめ、おそらくほとんどのスポーツでも同じことが言えると思います。ふだんから色々なタイプの選手と練習し合える環境のほうがアドバンテージがあります。それだけ多種多様な情報が脳にインプットされるからです。そういう意味において施術もまったく同じだということです。

 施術能力を高める一番の近道は、術者自身が様々なデバイスを体感することではないか、当会はそのように考えています。

 当会の実験および実技演習には初参加者の方も加わっていただいておりますが、これまでのところ支障を来たした例はございません(皆無です)。どなた様におかれましても、まったく問題なく安心してご参加いただけます。

 初めて参加する際、「実際の技術はどれくらいの力加減なのか知りたくて…」という方が多いのですが、まさしくその絶好の機会と捉えていただければと…。

 ただ事前の準備として、BFIの動画を見ておいていただくと当日の実技演習がスムースに行えると思います。いわゆるイメージトレーニングですが、最新の脳科学でその有効性が立証されています。お時間の許す範囲内で眺めておいていただければと思います。
 

  答え…①腓腹筋部分断裂
             ②陳旧性アキレス腱断裂
        ③CRPS(RSD)交感神経タイプ

 ③については患部周辺に異常なほどに強い熱感および高度な腫脹が3カ月以上持続していること、およびHRV(心拍変動解析)に検出される不整脈が家族内に頻出する強い心理的ストレスに同期して出現することなどに依拠します。

 また問診時の滑舌の悪さ、マンテストの不可現象(閉眼して立つことすらできない)、直近の記憶力低下、スマヌ法やシリアルセブンといったMCI簡易テストに対する陽性反応が見られたことから、脳疲労に起因するMCIを既に発症していることが推断され…。

 脳疲労に同期して疼痛閾値の上昇が見られる(脳疲労は疼痛感受性の増大を来たす場合と反対に低下を示す場合がある)と共に、自律神経の異常活動が顕著であることから、陳旧性アキレス腱断裂にCRPS(RSD)交感神経タイプを併発していると判断。

 尚、最終的に医療センターのMRI検査にて腱断裂が確定診断され、感染症リスクを優先した専門医の判断により手術回避となりました。

 そして現在、BFIの継続によってMCI所見が改善し、歩行も見違えるほどに回復。軽いハイキングも可能となりました。上記の映像(歩行態様)のように通常の歩行に支障はありません。

 尚、映像内の三上式プライトン固定はアキレス腱の癒合目的ではなく、歩行による負担を軽減させるために作られた機能性補助装具です。ご本人の感想として「30分以上歩くような場面では、この装具を着けていたほうが安心感があって疲れにくい」とのこと。

 ただ、アキレス腱断裂の受傷機転及び受傷時期についてはいまだ不明のまま…。当院に辿り着くまでのあいだ、受診した3軒の整形のいずれにおいてもアキレス腱断裂とは診断されておりませんでした(本人いわく「病院の説明はどこも同じで「ふくらはぎの肉離れ」と言われた…」)

 もっとも「登山中に転倒した際、地面から突き出た岩にふくらはぎをぶつけた」という本人の主張からは、その際に腓腹筋を部分断裂すると同時にアキレス腱も断裂してしまっていたのか、その後自然に断裂したのかがはっきりしません。

 いつどのようにしてアキレス腱が切れたのかが判然としないわけで、前述の3軒で見逃されたわけではなく、当院(4軒目)を受診する直前に自然断裂した可能性もゼロではない…。

 年配者のアキレス腱断裂にあっては切れたことに気づかないケースがあるわけで、この症例においても受傷時期が確定できないというむつかしさがあったわけです…。

これまでの経過を整理しますと、5月に登山で転倒、3軒の整形に通院するも下腿の腫脹が引かない(むしろ受傷直後より強くなってきた)ため9月に当院を受診し、アキレス腱断裂が判明。

手術の是非を仰ぐべく医療センターを紹介し、MRIによる確定診断および手術回避の判断。

その後のBFI 継続により腫脹改善。

そして12月13日現在、腱断裂部の癒合を認めないにも拘らず、ADLの支障はほとんどありません。

高齢者の陳旧性アキレス腱断裂では、個々のADLや運動能力レベル、基礎疾患等を鑑みて、断裂部の癒合ありきという従来の治療方針に拘泥することなく「脳の認知機能を回復させることに重点を置く」ことで良好な予後に至る場合のあることが、今回の症例で確認されたことになります。

 尚、現在も週2回のBFIやミラーセラピー等によるリハビリおよび心身のメンテナンスを継続しており、本人のコメントとして「先生が最初に仰っていた“相当な脳疲労が…”という言葉の意味が、最近になってすごく分かるようになったんです」と、以前の自分が何かおかしい感じだったこと(MCI発症)、そしてそこから恢復できたという実感を持つに至っていることが伺えます。

 MCIから生還した方はこのように「戻ってきた感」を話されることが多い。

 しかし今回のごとき症例に対しては、通常の医療現場にあっては「手術か?保存か?」といった腱の癒合をどうするかといった視点(ハード論)しかなく、MCIを念頭に置いた全人医療的な診療哲学を包含する医療者は相当に少ないでしょう…。

 今後の運動器プライマリケアはこうした役割、使命をも担う必要があるのではないか、否、担っていくべきではないか、当会はそのように考えています。

 脳の次元(ソフト論)を重視すべき時代が既に到来しています。

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