当記事は2016年5月の旧BFI研究会(当会の前身)での講演の一部です(その後若干の軌道修正に伴い変更箇所あり)。

…………【関節反射ショック理論】 …………
1)関節受容器によるフィードフォワード制御
2)〈序章〉~関節機能障害と痛み~
3)〈本編①〉~肘内障の実像に迫る~
4)〈本編②〉~微小関節反射ショックと遅発性ハードペイン~

関節反射ショックはギックリ腰の要因になり得るか?

 本編①において、肘内障の真の病態は関節トーヌスの瞬間消失すなわち一過性の関節内圧の極限低下(関節反射ショック)であること、ならびにそのメカニズム(関節受容器および中枢の関与)について解説しました。

 …ならば、ギックリ腰の中に関節反射ショック由来の痛みはあるのか?同様の現象は脊柱でも起こり得るか?といった疑問が浮上します。

 結論から言うと、その可能性は極めて低いと考えられます。その理由として、関節反射ショックはごく短時間-数秒、長くても数十秒-で回復する現象であるため、そもそもギックリ腰の症状を説明できないということ、さらに椎間関節や仙腸関節のような平面関節や半関節においては、小児の腕頭Jのような軸偏位は想定され得ない…。
 
 また脊柱には関節受容器のTypeⅢが存在しない(組織学的知見として報告されていない)ことから、本編①で取り上げた「Type I & II 」と「TypeⅢ」の連係エラーという現象は発生し得ません。

 カイロプラクティックでは歴史的にスラスト法が長きにわたって用いられてきた(今となってはその使用は限定的になりつつあるようですが)経緯があり、他の整体テクニックの状況を顧慮しても、脊柱に関節反射ショックが起こる可能性は相当に低いと考えられます。

微小関節反射ショックは遅発性の痛みを引き起こす

 関節反射ショックが脊柱に起こることは想定しにくいわけですが、ただし、外力の性質(強さ、方向、加速度等)や頻度によっては「微小関節反射ショック」が発生する恐れがあります。

 微小関節反射ショックとは「関節トーヌスの瞬間消失に伴う関節包内での組織間衝突に伴う侵害受容器の反応レベルが低く抑えられた現象」を指します。

 この場合は外力を受けた瞬間のハードペインは発生せず、関節受容器タイプⅣやサイレント受容器が時間差を置いて賦活することによる遅発性ハードペインが翌日から数日後に現れます

 臨床上、微小関節反射ショックは体幹・脊柱に見られる現象です。

 体幹・脊柱の関節にはTypeⅢがないため、関節反射ショックは基本的に起き得ないと考えられますが、外力の性質によってはフィードフォワード制御が正常に機能しない局面があり、関節内圧を正常に保てない“瞬間”が発生します。微小関節反射ショックはまさにその“瞬間”に発生する現象だと考えられます。

 頚椎に対するスラスト法で現れる遅発性ハードペインは微小関節反射ショックに因るものが多く、他にも以下のようなケースが認められます。

①は筆者自身の体験で

むち打ち症の痛みが遅発性である理由

 基本的に外傷(骨折・脱臼・打撲・捻挫)のほとんどは受傷と同時にハードペインが発生するわけですが、交通事故症例のむち打ち損傷においては外力を受けた瞬間のハードペインが発生しないケースが多い…。

 外力を受けてから時間差を置いて発生する痛み(数分後~数時間後あるいは翌日~数日後に発生する痛み)というものは、微小関節反射ショックによる遅発性ハードペインであることが強く臆断されます。むち打ち症例の多くはまさしくこのタイプであろうと、筆者は考えています。

 心身環境因子等によってブレノスタシス(→造語一覧)に関わる機能が低下している生体、すなわち脳疲労を抱えている生体にむち打ち損傷が発生すると、その後の経過によってはソフトペインが合併するケースがあります。

 こうしたケースでは、痛みの実態はハードペインではなく、ハイブリッドペインとなっており、時間の経過とともにソフトペインに移行していく場合がほとんどです。

 したがって、むち打ち損傷の痛みが長引く場合はソフトペインを念頭に置いて治療する必要があり、筆者はソフトペイン予防の観点から、むち打ち症例に対しては可及的早期(治療初期)の心理的介入を行っています。

 以下の動画でその実際をご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=_MRy-0QFjt8

中枢理論(ソフト論)の重要性

 ここまで述べてきた関節反射ショックについて整理すると、以下のとおりです(スライド画像)。

 膝ロッキング、習慣性および反復性肩関節脱臼等においても、関節反射ショックや脳疲労の観点から、病態を精査し直す必要があり、さらに「亜脱臼」という概念に対しても同様…。

 とくに「内因性関節反射ショック」という概念を追究することは重要であり、ハード論(末梢デバイス)偏重の診断哲学からソフト論(中枢の次元)重視の新しい診断哲学へのシフトが…。

 痛みの構造因論から脱却し、認知科学によるパラダイムシフトを推し進めるためにも、本理論は意義深いものがあり、末梢と中枢の関係性に目を向けるきっかけになり得ると思います。
        
 以上、H28年5月29日のBFI研修会における講演テキストの再現でした(一部に修正加筆あり)。

…………【関節反射ショック理論】 …………
1)関節受容器によるフィードフォワード制御
2)〈序章〉~関節機能障害と痛み~
3)〈本編①〉~肘内障の実像に迫る~
4)〈本編②〉~微小関節反射ショックと遅発性ハードペイン~

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